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2026.02.10
グループ藤沢院
腫瘍科

犬・猫の「がん治療」を考える|「延命はかわいそう?」という不安を紐解く

#病気の解説

はじめに

「がんです」と告げられたとき、恐怖や悲しみとともに多くの方が抱くのが、「治療をすることが、この子にとって本当に幸せなのだろうか?」という葛藤です。 「苦しい思いをさせてまで、ただ生かしておくのはかわいそう……」 そう悩まれるのは、それだけ深く愛されている証であり、ご家族としてごく自然な感情です。動物医療におけるがん治療の本当の目的は、決して「苦しみの引き延ばし」ではありません。その真実についてお話しします。

動物のがん治療における「目的」の捉え方

人のがん治療と動物のがん治療では、大切にしている「優先順位」が少し異なります。

人医療との違い:QOL(生活の質)の最優先

人医療におけるがん治療の目的は、原則として生存期間の延長です。そのため、一定程度のQOL(生活の質)の低下を許容しながら治療を行うことがあります。

一方、動物医療では考え方が異なります。
もちろん、完治が見込めるがんについては、積極的な治療介入を推奨します。
しかし、それ以外の多くのがんにおいて、動物医療の抗がん治療の本質的な目的は、「がんを制御することで苦痛を取り除き、より良い生活を送れるようにすること
その結果として、生存期間の延長が“ついてくる”という点にあります。

動物たちは言葉を話すことができません。苦痛が続く生存期間の延長を本当に望んでいるのか、私たちには分かりません。ただし、苦痛から解放されたいという願いは、生きとし生けるすべての命に共通するものです。

進化した「副作用の緩和・疼痛管理」

もう一つお伝えしたいのは、医療の進歩によって、がん治療に伴う苦痛は、イメージほど大きくないという点です。これは人医療においても同様です。たとえば、適切な鎮痛薬を組み合わせることで、術後の疼痛管理は十分に可能です。また抗がん剤の副作用も、事前投与する薬によって予防・軽減できます。
そして抗がん剤は「副作用が出ない最大許容量」を算出して使用します。もちろん、治療による痛みや副作用がゼロになるわけではありません。しかし、苦痛を最小限に抑えつつ、最大の治療効果を得ることを前提に、治療計画は立てられています。

あなたと愛犬・愛猫に合った「3つの治療選択」

さらにがん治療の目的は、大きく分けて3つの選択肢があり、状況に応じてアプローチを組み合わせて検討していきます。

 1. 根治治療

手術・放射線・抗がん剤を組み合わせて、、完治を目指す治療です。一時的な苦痛や部分的な機能低下を伴う可能性はありますが、長期的な生存が期待できる治療です。適応となる腫瘍は限られます。

 2. 緩和治療

手術・放射線・抗がん剤を用いて、現在ある、あるいは今後予測される苦痛を取り除くことを目的とした治療です。根治が難しいがんが主な対象となります。

3. 対症療法

抗がん治療は行わず、痛み・吐き気・下痢など、出現した症状に対して行う治療です。すべての腫瘍が対象となります。なお、対症療法は根治治療・緩和治療のどちらを選択した場合でも必ず併用される非常に重要な治療です。

さいごに

実際には、根治を目指せないがんの方が圧倒的に多いのが現実です。

その中で、以下のような点を踏まえ、ご家族ごとに最適な治療選択を考えていく必要があります。

  • 動物の性格
  • 大切な時間の過ごし方
  • ご家族の生活環境
  • 経済的な背景

どのような選択をされようと、それは決して「間違い」ではありません。それぞれが尊ばれるべき、生きる道筋です。

「がん」と宣告され、さらに治療の選択を迫られる――とても残酷な現実かもしれません。

だからこそ、ゆっくり、そして丁寧に考える時間が大切です。最適な選択ができるよう、どうぞ焦らず、しっかりとご相談ください。クロス動物医療センターにてお待ちしております。

クロス動物医療センターグループ 獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗