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2026.03.23
グループ藤沢院
腫瘍科

犬と猫の「抗がん剤」と「分子標的薬」の違い|副作用を抑えた新しい治療の選択肢

#病気の解説

はじめに

がんの薬物治療と聞くと、今もなお「抗がん剤=副作用がつらい」というイメージを持たれる方は少なくありません。その不安から治療に踏み出せずにいらっしゃるご家族も多いと思います。

これまでのコラムでもお伝えしてきましたが、動物医療における抗がん剤治療は「苦しませる治療」ではなく、今ある苦痛を和らげ、これから起こり得る苦痛を予防し、生活の質を守ることを目的としています。それでもなお、不安が完全に消えるわけではありません。

そこで今回は、近年動物医療でも用いられるようになってきた分子標的薬について、医学的根拠に基づきながら分かりやすく解説いたします。

従来の「抗がん剤」:増殖の勢いを止める

一般的な抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)は、細胞分裂の仕組みそのものに作用し、増大するがん細胞にダメージを与えます。

  • 仕組み
    細胞が分裂・増殖するプロセスを阻害します。
  • 副作用の理由
    「分裂が盛んな細胞」を狙うため、正常な組織(骨髄や胃腸など)にも影響が及ぶことがあり、これが副作用の原因となります。
  • 当院の工夫
    投与量やスケジュールを緻密に設計し、重篤な副作用を極力防ぐ「安全な治療」を心がけています。

「分子標的薬」:がんの“増殖スイッチ”を狙い撃つ

分子標的薬は、がん細胞が増殖に利用している「特定の分子」を狙うお薬です。

  • 仕組み
    細胞表面にある増殖の“スイッチ”(受容体型チロシンキナーゼ)が異常に活性化している場合、そのスイッチをピンポイントでOFFにすることで、がん細胞の増殖を抑制します。
  • 特徴
    「分裂している細胞全体」ではなく「がんの増殖の仕組み」を狙うため、正常細胞への影響を抑え、比較的穏やかな経過が期待できます。
  • 血管新生の抑制
    また一部は、がんが成長するために必要な血管形成にも受容体型チロシンキナーゼの異常活性が関わっているため、その部分に影響を与えて、がん細胞の成長を抑制します。

すべてのがんに適応できるわけではありませんが、条件が合えば「不安の少ない選択肢」となり得る治療です。

治療法の比較一覧

項目従来の抗がん剤分子標的薬
ターゲット分裂が盛んな細胞すべてがん特有の増殖スイッチ(分子)
主な作用細胞分裂の停止・阻害増殖信号の遮断・血管新生の阻害
副作用の傾向骨髄抑制、嘔吐・下痢など薬ごとの特異的な症状(比較的選択的)
選択の基準幅広いがんに適応特定の遺伝子異常や腫瘍種に適応

さいごに

実際のところ、分子標的薬が抗がん剤より優れているというわけではありません。
抗がん剤が適している場合もあれば、分子標的薬が適している場合、あるいは組み合わせることでより効果が期待できる場合もあります。それぞれにメリットと注意点があり、正解は一つではありません。
私たちは医学的根拠に基づきながらも、それぞれのご家族にとって、最も納得できる選択を一緒に考えていきたいと思っています。
より穏やかな時間を守るための選択肢を、共に見つけるために是非クロス動物医療センター藤沢にご相談ください。

クロス動物医療センターグループ
獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗