病気のコラム
血液のがん「リンパ腫」を正しく知る|認定医が教える分類と最新の治療戦略
はじめに
リンパ腫。かつては「リンパ肉腫」と呼ばれていました。現在、リンパ腫は犬や猫において発生頻度の高い、いわば“代表的ながん”のひとつです。
リンパ球という白血球の一種が腫瘍化した疾患です。白血病のように血管内で腫瘍細胞が増え続けるだけでなく、リンパ腫は
- リンパ節
- 消化管
- 皮膚
- 鼻腔
など、さまざまな部位に発生します。
ではなぜリンパ腫は「いろいろな場所」にできるのでしょうか。そしてなぜ、ときに“しこり(腫瘤)”として見つかるのでしょうか。そこにはリンパ球本来の性質が深く関わっています。
犬・猫のリンパ腫とは?「血液のがん」が全身にできる理由
リンパ球は骨髄で生まれ、免疫の司令塔として働く細胞です。
血管内だけでなく、リンパ節やリンパ管、さらには全身の組織を巡回しながら体を守っています。つまりリンパ球は、もともと全身を移動する能力を持つ細胞なのです。
リンパ腫とは、その“移動能力を持つ細胞”が腫瘍化した状態を指します。
リンパ球本来の性質と「ホーミング(移動能力)」
リンパ球にはホーミング(homing)と呼ばれる性質があります。(Steven T Pals et al. Blood 2007)
これは特定の組織へ選択的に移動し、定着する仕組みのことです。リンパ球の表面には接着分子や受容体が存在し、各臓器側にはそれに対応する分子が発現しています。この“鍵と鍵穴”のような関係により、
- 消化管へ集まるリンパ球
- 皮膚へ向かうリンパ球
- リンパ節へ戻るリンパ球
といったように、ある程度行き先が決まっています。
この正常なホーミング機構を保持したまま腫瘍化すると、リンパ腫も同様に特定の部位へ集積しやすくなります。
これが
- 消化器型リンパ腫
- 皮膚型リンパ腫
- 鼻腔型リンパ腫
- 多中心型リンパ腫
といった発生様式の背景の一因と考えられています。
リンパ腫の“できやすい場所”は偶然ではなく、正常リンパ球の生理的分布が反映された結果とも言えるのです。
診断の鍵となる「型(タイプ)」と「悪性度」の分類
免疫表現型による分類
- B細胞性リンパ腫
- T細胞性リンパ腫
犬ではB細胞性が比較的多く、一般にT細胞性より予後は良好とされます。免疫染色、フローサイトメトリー、PARR検査などにより分類され、この情報は治療方針や予後予測に直結します。
病理学的分類
- 高悪性度(High grade / 低分化型)
- 低悪性度(Low grade / 高分化型)
同じリンパ腫でも、生物学的な振る舞いは大きく異なります。
【部位別】リンパ腫の治療選択
がん治療の三大治療として下記のものが挙げられます。
- 外科療法
- 放射線療法
- 化学療法
リンパ腫は原則として全身性疾患であるため、化学療法が第一選択となることが多い腫瘍です。しかし発生部位や病態によっては、治療の優先順位や組み合わせが変わります。
消化器型リンパ腫
腸閉塞や穿孔がある場合は緊急手術が必要です。近年では、猫においては閉塞や穿孔がなくても外科切除と化学療法の併用が生活の質や生存期間の改善につながる可能性が示唆されています。
皮膚型リンパ腫
分類やステージによっては、まず掻痒のコントロールを優先することもあります。
鼻腔リンパ腫
猫で比較的よく認め、放射線治療により生活の質や生存期間の向上が期待されます。化学療法併用の有用性を示唆する報告もあります。
多中心型リンパ腫
全身のリンパ節が腫大するタイプで、原則として化学療法が中心です。近年では放射線治療による半身照射など新たな治療戦略も検討されています。
さいごに
リンパ腫は「血液のがん」と言われながらも、局所に腫瘤を形成し、多様な臨床像を示します。
- 発生部位
- 免疫表現型
- 悪性度
- 進行度
これらによって、治療戦略は大きく変わります。さらにご家族それぞれに合った治療を科学的根拠に基づきながら層別化し、最適化していく必要があります。リンパ腫で悩んでいることがあればクロス動物医療センター藤沢にご相談ください。
クロス動物医療センターグループ 獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗