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2026.05.04
グループ藤沢院
腫瘍科

犬の肥満細胞腫の治療法|手術から最新の注射薬(チギラノール)まで認定医が解説

#病気の解説

犬の皮膚肥満細胞腫とは?「太っている」こととは無関係な理由

肥満細胞とは、細胞内に顆粒を多く含む特徴から、ドイツ語で「Mastzelle(太った細胞)」と名付けられました。これが直訳され、「肥満細胞」と呼ばれていますが、体の肥満とは全く関係ありません。

肥満細胞は主に免疫に関わる細胞で、皮膚や粘膜をはじめとしたさまざまな組織に存在しています。この肥満細胞ががん化したものを「肥満細胞腫」と呼びます。犬の皮膚がんの中で最も発生頻度が高いとされるこの腫瘍について、詳しく解説していきます。

皮膚肥満細胞腫の多様な見た目と特異な性質

脂肪腫(脂肪の塊)と間違われやすい外貌

大きく目立つしこりとして現れるものもあれば、柔らかく脂肪の塊のように触れるものまで、その見た目や触感は非常に多様です。そのため、見た目や触り心地だけで判断することはできません。

触ると赤く腫れる「ダリエ徴候」とヒスタミンのリスク

肥満細胞は、ヒスタミン(アレルギー反応に関与)やヘパリン(血液凝固を抑制)など、さまざまな物質を顆粒として細胞内に含んでいます。

これらは触った刺激や検査などをきっかけに放出されることがあり、「ダリエ徴候」と呼ばれる以下のような症状が見られることがあります。

  • 赤み
  • 腫れ(むくみ)
  • 皮下出血
  • かゆみ

悪性度を左右する転移の挙動と「c-kit遺伝子変異」

挙動

肥満細胞腫は局所浸潤性が強く、見た目で確認できるしこり以上に周囲へ広がっていることが少なくありません。
また、悪性度はさまざまで、低悪性度のものから高悪性度のものまで幅があります。
高悪性度の場合には、リンパ節や脾臓、肝臓などへの転移を起こし、命に関わる状態となる可能性があります。

遺伝子変異

肥満細胞腫では、「c-kit」と呼ばれる遺伝子の異常が関与していることがあります。
この変異は腫瘍の悪性度と関連することが知られており、検査によって調べることで、治療方針や予後を考える上での重要な情報となります。

【ステージ別】皮膚肥満細胞腫の治療戦略

外科療法

基本的な第一選択は手術による切除です。
肥満細胞腫は局所浸潤性が強いため、肉眼で確認できるしこりの周囲に十分な安全域(一般的に約2cm)を確保して切除する必要があります。
また、悪性度にかかわらず、リンパ節の評価や切除を検討することが、より良い予後につながる場合があります。

放射線療法

以下のような場合に選択されます。

  • 外科的切除が困難な部位に発生した場合
  • 不完全切除後に追加切除が難しい場合

放射線療法が実施可能診療施設へのご紹介を行います。

化学療法

抗がん剤

高悪性度が疑われる場合や、すでに転移の可能性がある場合に実施されます。

分子標的薬

術前の段階で高悪性度が疑われる場合には、治療効果の評価を目的として術前から投与を開始することがあります。また術後も、潜在的な転移リスクを考慮して継続投与が検討されます。

局所投与治療

合成副腎皮質ホルモン(ステロイド)や、チギラノールチグレートと呼ばれる腫瘍細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導する薬剤を、腫瘍内に直接注射する治療法があります。

局所に作用する治療であるため、外科手術と比較して侵襲や全身的な副作用は比較的少ないとされています。一方で、適応は主に転移のない皮膚肥満細胞腫に限られ、また長期的な成績に関する情報もまだ十分とは言えません。

そのため、すべての症例に適応できる治療ではなく、慎重な症例選択が重要となります。

さいごに

肥満細胞腫は、その見た目から良性のしこりと誤解されやすい腫瘍です。しかし、適切な検査と治療を行わなければ、悪性度に関わらず望ましくない経過をたどる可能性があります。発生頻度が高い腫瘍であるからこそ、慎重かつ丁寧な対応が求められます。

愛犬の皮膚にしこりや違和感を見つけた際には、早めの受診をおすすめします。その際はクロス動物医療センター藤沢にご相談ください。

クロス動物医療センターグループ 獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗