症例・治療報告

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2026.02.27

藤沢院

腫瘍科

膝動脈を用いた軸型皮弁による閉創を行った皮下肥満細胞腫の一例

症例情報

ミニチュア・シュナウザー 10歳 6kg 去勢雄

主訴

右後肢に柔らかいしこりを認める。

初診時所見

身体検査

  • 右膝窩部に直径1.1cmの軟性腫瘤を触知。
  • 皮膚との固着を認めたが、底部(深部組織)との固着は認めなかった。

穿刺細胞診

細胞質内に豊富な顆粒を有する肥満細胞のモノクローナルな増殖を確認。
以上より肥満細胞腫(Mast Cell Tumor:MCT)と診断した。

皮下肥満細胞腫について

肥満細胞腫は犬において最も一般的な皮膚腫瘍の一つであり、多くは皮膚に発生する。しかし一定の割合で皮下組織に発生することが知られている。

従来、皮下肥満細胞腫は皮膚肥満細胞腫と比較して予後良好と考えられてきたが、近年の報告では皮下肥満細胞腫の中にも攻撃性の高い症例が含まれることが示唆されている。

(Cherzan NL et al. Vet Surg 2023/Escoda Llorens X et al. Vet Med Sci 2025)

そのため、皮下肥満細胞腫であっても十分なマージンの確保と転移評価が重要である。

また、肥満細胞腫は浸潤性が高く、肉眼的腫瘤サイズ以上に腫瘍細胞が広がっている可能性がある。一般的に側方2cm以上、深部は筋膜1–2枚を含めた切除が推奨される。

さらに、リンパ節の腫大が認められない場合でも微小転移が存在する可能性がある。

以上を踏まえ、本症例では

  • 広範囲切除
  • 膝窩リンパ節郭清

を同時に実施する方針とした。

外科療法

腫瘤辺縁より2cmの安全マージンを確保し、深部は筋膜2枚を含めて一括切除を行った。
同時に膝窩リンパ節の郭清を実施した。その結果、膝窩部に大きな皮膚欠損が生じた。

本部位は可動性が高く、単純閉創では以下の合併症が懸念される。

  • 過剰なテンションによる術創離開
  • 過剰なテンションによる膝関節機能異常
  • 膝関節屈曲時の張力増加による術創離開
  • 下腿遠位部の血液還流障害に伴う壊死

これらを回避するため、本症例では膝動脈を用いた軸型皮弁(genicular artery axial pattern flap)を選択した。

術後経過

術後3週で抜糸を実施。

術後、軽度の歩行時違和感および軽度の漿液貯留を認めたが、皮弁の壊死や部分的脱落は認められず、良好な生着が得られた。

膝関節機能にも影響はなく、形態的にも良好な転帰を示した。

病理組織検査

腫瘤:皮下肥満細胞腫 切除縁に腫瘍細胞を認めず

リンパ節:HN2の転移を認める

考察

皮弁形成術は広範囲切除後の閉創において極めて有用である。一方で、局所解剖構造を大きく変化させるため、腫瘍の不完全切除が判明した場合の追加拡大切除が困難となる。

したがって、皮弁形成術は腫瘍の完全摘出を前提とした外科計画のもとで慎重に選択されるべき術式である。

さいごに

クロス動物医療センター藤沢では、肥満細胞腫をはじめとする体表腫瘤に対し、腫瘍学的妥当性と形成外科の両面から治療計画をご提案しております。

セカンドオピニオンやご相談のみでも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

クロス動物医療センターグループ 獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗