病気のコラム
犬と猫の抗がん剤治療|知っておくべき「3つの副作用」と最新の安全基準
はじめに
「抗がん剤は副作用が怖い」
がん治療を検討する際、ご家族様が最も不安に感じるのはこの点ではないでしょうか。
副作用について「なんとなく怖い」という漠然とした不安を、「何が起こり、どう対処できるかを知っている」という安心に変えること。それが、後悔のない治療選択の第一歩です。今回は、獣医学的に証明されている副作用の真実について詳しく解説します。
なぜ副作用が起こるのか?
副作用を理解するためには、まず抗がん剤がどのように働く薬なのかを知ることが大切です。
抗がん剤にはさまざまな種類がありますが、多くは細胞分裂を抑えることで、がん細胞が増えるのを止めます。
しかし体の中には、正常な組織でも活発に細胞分裂をしている場所があります。
そこに薬の作用が及ぶことで副作用が生じます。
注意すべき「代表的な3つの副作用」
特に分裂が盛んな以下の3箇所に症状が出やすくなります。
1. 骨髄抑制(血液への影響)
骨髄では赤血球・白血球・血小板といった血液の細胞が日々作られ、血管の中へ送り出されています。
抗がん剤によってこれらの細胞の提供が抑えられると、これらの細胞が十分に供給されなくなります。これを骨髄抑制といいます。
- 特に注意: 寿命の短い「白血球」が減りやすく、体の免疫力が一時的に低下します。
- サイン: 元気がない、熱がある。ご自宅での体温測定が早期発見に役立ちます。
それぞれの細胞の寿命
- 赤血球:約120日
- 白血球:約4〜8時間
- 血小板:約4〜6日
2. 消化器毒性(お腹への影響)
腸の粘膜は数日単位で新しく生まれ変わるため、細胞分裂が妨げられると粘膜が傷つき、炎症が起こります。このように、消化器は抗がん剤の影響を受けやすい場所として知られています。
- 症状: 嘔吐、下痢、食欲不振。
- 対策: 症状が出る前に胃腸薬を使用するなど、予防的なケアが可能です。
3. 脱毛
被毛も毛包の中で細胞分裂を繰り返すことで伸びています。
毛を伸ばす細胞の分裂が抑制されることで、毛が抜けることはありますが、ワンちゃん・ネコちゃんの場合、人間ほど目立つ脱毛が起こることは稀です。
副作用の重症度を測る「世界基準」
私たちは、国際的な評価基準(VCOG)に基づき、副作用の強さを5段階で厳格に判定しています。
| グレード | 状態の目安 | 対応の基準 |
| Grade 1 | 軽微な変化 | 軽度で治療を必要としない |
| Grade 2 | 症状がある | 治療は必要だが通院で対応可能 |
| Grade 3 | 重い症状 | 入院治療が必要 |
| Grade 4 | 極めて重篤 | 命に関わる状態 |
| Grade 5 | – | 逝去 |
詳細な副作用の判断項目(一部抜粋)
| 有害事象/Grade | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 好中球減少症 | 1500/μL< | 1000-1499/μL | 500-999/μL | <500μL | 逝去 |
| 食欲不振 | なだめたり、食事の変更で食欲が維持可能 | 重大な体重減少がない食事量の低下(3日以内)。食事の補助が必要。 | 3日以内ではあるものの10%以上の重大な体重減少・栄養失調が起こる。入院が必要。 | 5日以上の命に関わる食欲不振による栄養状態の悪化。入院が必要。 | 逝去 |
| 嘔吐 | 3回未満/日。治療の必要はない。 | 3〜10回/日。48時間以内に終息する。48時間以内の点滴が必要。 | 48時間を超えて複数回の嘔吐が認められる。48時間以上の点滴が必要。 | 生命を脅かす嘔吐。 | 逝去 |
| 下痢 | 2回未満/日の排便増加を伴う軽度の下痢。24時間以上は続かない。治療の有無に関わらず良化する。 | 3〜6回/日の排便増加を伴う24時間以上続く下痢。治療が必要。48時間以内の点滴が必要。 | 6回以上/日の排便増加を伴う48時間以上続く便失禁。48時間以上の点滴が必要。 | 生命を脅かす下痢。 | 逝去 |
当院では、「副作用をGrade 2までに抑えること」を絶対的な目標としています。もし副作用が強く出そうな場合は、投与量や薬の種類を即座に調整し、QOL(生活の質)を最優先に守ります。
ただし、同じGradeであっても「どこまで許容できるか」はご家族によって異なります。
そのため状況に応じて治療内容を調整し、メリットとデメリットのバランスを取りながら、その子に合った方法を一緒に考えていきます。
さいごに
やはり抗がん剤は、一般的な薬と比べると副作用が出やすいです。
しかし動物医療における抗がん剤治療は、今ある苦痛を和らげ、あるいはこれから起こり得る苦痛を回避するために行うもので、生活の質をできる限り保つことを目標としています。
そして副作用の現れ方も、その受け止め方も、ご家族や動物たちによって一人ひとり異なります。だからこそ私たちは、それぞれのご家族に合った治療プランをご提案いたします。
クロス動物医療センター藤沢では、その選択を一緒に考えていくことができます。
ぜひ一度ご相談ください。
クロス動物医療センターグループ
獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗