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2026.03.30
グループ藤沢院
腫瘍科

猫の消化器型リンパ腫|科学的根拠に基づく「オーダーメイド治療」の選択肢

#病気の解説

はじめに

これまでのコラムでは、抗がん治療の概要についてお話ししてきました。では実際に「オーダーメイドの治療」とはどのようなものなのでしょうか。
今回は猫の消化器型リンパ腫を例に、当院がどのような視点で治療方針を組み立てているのかをご紹介いたします。ぜひご一読ください。

猫の消化器型リンパ腫について

猫で食欲不振、嘔吐、下痢などの症状がみられる場合、鑑別診断のひとつとして消化器型リンパ腫が挙げられます。これは腸に存在するリンパ球ががん化する疾患で、進行速度や症状の強さは猫ごとに大きく異なります。

治療方針を決める「4つの視点」

消化器型リンパ腫の治療に「唯一の正解」はありません。以下の要素を総合的に判断し、ご家族様と共に目標を設定します。

  1. 全身状態・年齢:今の体力でどの程度の治療に耐えられるか。
  2. 性格:通院や投薬がストレスにならないか。
  3. 基礎疾患:心臓や腎臓に持病がないか。
  4. 飼い主様の願い:「完治を目指す」のか「苦痛を最小限にする」のか。

手術と化学療法の役割

治療の選択肢には主に下記の3つが存在します。

  1. 手術と化学療法を組み合わせる方法
  2. 手術を行わず化学療法を中心に行う方法
  3. 積極的抗がん治療は行わず対症療法を行う方法

必ずしも一つの正解があるわけではありません。重要なのは「何を目標にするのか」を明確にしたうえで、その子にとって最も合理的な方法を選択することです。

手術:緊急対応から診断の向上まで

手術は、腸閉塞や穿孔といった緊急対応だけでなく、下記のような目的でも実施されます。

  • 症状の緩和
  • 腸の通過性の改善
  • 腫瘍量の減少
  • 病理診断精度の向上

明らかな閉塞や穿孔がない場合でも、治療全体の戦略の一環として行われることがありますが、全身麻酔が必要となるため、全身状態や併存疾患を十分に評価したうえで慎重に判断します。

化学療法(抗がん剤):リンパ腫治療の柱

リンパ腫では、CHOPプロトコルと呼ばれる以下の薬剤を組み合わせた治療が、現在もスタンダードな治療として広く行われています。

  • ビンクリスチン
  • シクロホスファミド
  • ドキソルビシン
  • プレドニゾロン

ただし、同じプロトコルであっても、副作用の出方や反応性には個体差があります。
そのため、画一的に投与するのではなく、その子の状態に合わせた薬剤調整が重要になります。

科学的根拠に基づいた「薬剤選択の工夫」

当院では、最新の知見に基づき、副作用のリスクを最小限に抑える工夫を行っています。

1. 消化管への優しさ(ビンブラスチンの選択)

ビンクリスチンは有効性の高い薬剤ですが、一部の猫では腸の動きが低下し、食欲不振が悪化することがあります。消化器の腫瘍で既に消化器症状がある場合、治療によって症状がさらに悪化してしまっては本末転倒です。そこで同系統薬であるビンブラスチンは、消化管への影響が比較的少ない可能性が報告されています。

  • 出典:E L Krick et al. Prospective clinical trial to compare vincristine and vinblastine in a COP-based protocol for lymphoma in cats. 2013

もちろん、すべての消化器型リンパ腫でビンブラスチンを使用することが最善とは限りません。猫の状態、腫瘍の性質、治療目標を踏まえ、総合的に判断いたします。

2. 内臓への負担軽減(ミトキサントロンの検討)

ドキソルビシンはリンパ腫治療において非常に重要な薬剤ですが、心疾患や腎疾患を抱えている猫では、治療による負担を慎重に評価する必要があります。そのような場合、心臓と腎臓への負担が比較的少ないとされるミトキサントロンを用いた治療が検討されることがあります。

  • 出典:Nicholas A Lai et al. Comparison of outcomes in feline intermediate- to large-cell lymphoma treated with CMOP instead of CHOP. 2025

さいごに

当院では、スタンダードな治療を土台としながら、論文などの科学的根拠を背景に、その子の全身状態や生活環境を踏まえた現実的な治療選択を大切にしています。同じ病名であっても、同じ治療が最善とは限りません。私たちは「その子にとって最も合理的で、医学的に妥当な選択は何か」を常に問い続けながら、飼い主さまと共に治療方針を組み立てていきます。詳しくはクロス動物医療センター藤沢にご相談ください。

※本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の症例を示すものではありません。治療方針は個々の状態によって異なります。

クロス動物医療センターグループ
獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗