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2026.03.09
グループ藤沢院
腫瘍科

犬・猫のがんはなぜ命を奪うのか|医学的な理由と、最期まで穏やかに過ごすために

#病気の解説

はじめに

「がんです」と宣告されたとき、誰もが「なぜこの子の命が奪われなければならないのか」という、やり場のない問いに直面します。この現実に目を向けることは非常に辛いことですが、がんが体に何を引き起こしているのかを理解することは、闇雲な恐怖を和らげ、今のこの子に何をしてあげられるかを考える「手がかり」になります。 今回は、獣医学的な視点から、がんが命に影響を及ぼすメカニズムについてお話しします。

がんが命を奪う「2つの大きな理由」

がんが体に与える影響は、大きく分けて「その場での増殖」と「離れた場所への転移」に分けられます。

1. がんの「増殖」が体に及ぼす影響

腫瘍が大きくなる過程で、体の中では以下のような深刻な事態が進行することがあります。

血液の異常(DIC:播種性血管内凝固症候群)

血液には本来「凝固」という重要な働きがあります。例えばケガをした際に出血が止まり、かさぶたができる現象がそれです。

しかし、がんによって全身に強い炎症が起こると、この凝固機能が過剰に働くことがあります。その結果、血管内に微小血栓(小さな血の塊)が多数形成されます。

この微小血栓が肝臓や腎臓などの重要臓器の毛細血管に詰まると、臓器が正常に機能できなくなり、命を脅かす状態に至ります。これが播種性血管内凝固症候群です。

突然の出血(切迫破裂)やショック

がん組織はその特性上、非常にもろい構造をしています。
さらに成長のために多くの血液を必要とするため、内部に血液が豊富に存在することがあります。そのため、わずかな衝撃で崩れたり破裂したりすると、多量出血を引き起こすことがあります。
ショックとは、出血や強い刺激などによって血圧が異常に低下し、全身に十分な血流が送れなくなる状態を指します。臓器が機能を維持できなくなり、命に関わる事態へと進行します。

腫瘍随伴症候群による臓器障害

がんが分泌する物質や免疫異常によって引き起こされる全身症状を、腫瘍随伴症候群と呼びます。代表的なものには以下があります。

  • 免疫介在性溶血性貧血:免疫機能の異常により赤血球を有害物と誤認し破壊してしまう病態です。
  • 低血糖:巨大化するタイプのがんは多くのエネルギーを必要とするため、血液中の糖が過剰に消費されることで起こります。
  • 高カルシウム血症:がん細胞が分泌する物質により、骨から血液中へ過剰にカルシウムが溶け出す病態です。これらはいずれも全身状態を悪化させ、致命的となる恐れがあります。

栄養障害(悪液質)

がん細胞は炭水化物(糖)を主なエネルギー源として増殖します。糖を利用する過程で乳酸が産生され、その処理に体は多くのエネルギーを消費します。
その結果、十分に食べていても体は消耗しやすく、痩せ衰えていくことがあります。やがて各臓器へ必要な栄養が行き渡らなくなり、生命維持が困難になる場合があります。

2. がんの「転移」が引き起こす多臓器不全やがん性胸膜炎/腹膜炎

がんは強い炎症を引き起こします。
特に胸腔や腹腔内に存在するがんでは、炎症が周囲の臓器へ広がりやすくなります。
また、腫瘍表面が破綻するとがん細胞が胸膜や腹膜へ飛び火し、さらにその場で増殖と炎症を引き起こします。炎症が広範囲に及ぶと複数の臓器が機能不全に陥り、最終的に命を落とすことがあります。

さいごに:苦痛を和らげ、尊厳を守るために

がんによる死は、残念ながら必ずしも安らかなものとは限りません。現実として、苦痛を伴う経過をたどることも少なくありません。
だからこそ私は、その苦しみを少しでも和らげたい、少しでも穏やかな時間に変えたいという思いで、日々がんと向き合っています。
「手術、放射線治療、化学療法、そして対症療法__あらゆる選択肢を駆使し、その子とご家族にとって何が最善かを考え抜くこと」
それが私の信念です。

そして、がんと戦う力は医療従事者だけでは成り立ちません。ご家族の深い愛情と支えがあってこそ、初めて本当の意味で向き合うことができます。
そのことを、私は日々心に刻んでおります。命が尽きることは、どうしても避けられない瞬間です。それは非常に寂しく、悲しいことです。
それでも最期の時まで、少しでも苦痛が少なく、幸せだったと思える時間を、ご家族と共に過ごせるようにクロス動物医療センター藤沢は全力でサポートさせていただきます。

クロス動物医療センターグループ 獣医腫瘍科認定医II種 大山広朗