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この記事をぜひ読んでほしい方

  • 猫伝染性腹膜炎(FIP)が疑われるとかかりつけ医に言われた
  • 猫伝染性腹膜炎(FIP)は治らないという話を見聞きした
  • FIPという猫にとって危険性の高い病気があると見聞きした

目次

  • 猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、どのような病気なのでしょうか
  • 猫コロナウイルスは、どのようにして伝染するのでしょうか
  • 発症しやすい年齢は?
  • 発症しやすい品種は?
  • 猫伝染性腹膜炎の特徴や初期症状は?急死もありえる?
  • 猫伝染性腹膜炎の種類は?
  • 猫伝染性腹膜炎は本当に治る病気になったのでしょうか?
  • 猫伝染性腹膜炎はどのように診断される?検査方法は?料金は?保険は適用される?
  • 治療しても再発する?再発診断はどうやるのでしょうか?
  • かからないことが一番!効果のある予防策は?
  • 人間の新型コロナウイルスもありますが、同じ症状になるのでしょうか?
  • 猫コロナウイルスが人間に感染することはないのでしょうか?
  • 以下のような症状があれば、すぐに受診をしてください

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、どのような病気なのでしょうか?

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫のうち6-7割程度の割合が保有しているとされている猫コロナウイルス(Feline coronavirus: FCoV)が突然変異し、毒性の非常に強い猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)になることで引き起こされる病気です。

猫コロナウイルスは本来のところ病原性が低く、ほとんどの猫には症状がありません。しかし、その猫コロナウイルスが、なんらかの理由でFIPVへと突然変異すると、途端に愛する命を容赦なく奪う致死性の高い病気を発症させるのです。

ストレスなどによる免疫機能の抑制が原因の一部ではないかとされていますが、残念ながらFIPVへ突然変異する原因は明らかとされておらず、確実な予防策はないのが現状です。

とはいえ、この記事を読む方にぜひとも知っていただきたいのは、近年までは不治の病とされていたFIPには治療薬が開発されており、治療できる病気となっていることです。病院によっては未だに安楽死を推奨される場合がありますが、絶対に大切な命を諦めないでください

—猫コロナウイルスは、どのようにして伝染するのでしょうか

空気感染はせず、経口感染が主な感染経路とされています。親猫が感染していたり、感染している猫と毛づくろいし合ったりすると、感染する可能性があります。

多頭飼い等で同居猫がいる場合には変異前の猫コロナウイルスの状態では感染する可能性がありますが、毒性の強いFIPVへ突然変異した後では感染力は大きく低下する傾向があり、猫から猫への感染はほぼないと考えられています。

—発症しやすい年齢は?

一般的には2歳以下の若年の猫での発症が多いとされています。特に1歳以下での発症が70%程度を占めるとのデータもあるようで、実際当院へのご相談もそれぐらいの猫ちゃんのケースが多い状況です。

成長するにつれ、発症確率は減少しますが、8歳-10歳以降の高齢になってくるとまた増加する傾向があります。

—発症しやすい品種については?

雑種の猫よりも純血種に多いという報告もありますが、ほとんど差がないという報告もあるため、未だ明確なエビデンスがあるわけではありません。

猫伝染性腹膜炎の特徴や初期症状は?急死もありえる?

猫伝染性腹膜炎(FIP)にはいくつかの種類があり、種類によって症状が異なります。種類によっては、発見から10日以内に急死してしまうケースも存在します。

どのタイプにも共通して以下のような初期症状があるため、兆候を見つけ次第すぐに動物病院へ行ってみることをおススメいたします。

  • 発熱
  • 食欲低下
  • いつもより元気がない
  • 歩き方がおかしい など

その後FIPの種類によって、深刻化する症状が分かれていきます。

—猫伝染性腹膜炎の種類は?

3つの種類(ドライ、ウェット、ドライ・ウェットの混合タイプ)があります。

  • ウェット
    • FIPの多くはこちらのタイプに分類されます。
    • おなかや胸に水が溜まり、(お腹なら腹水、胸なら胸水と言います。)その腹水・胸水が肺を圧迫することで呼吸困難などの症状を引き起こします。
    • 嘔吐や下痢などの消化器異常を引き起こす場合があります。
    • 短期間で症状が悪化しやすいタイプであり、症状の発生から10日以内に急死する可能性があります。
  • ドライ
    • 様々な臓器に肉芽腫性炎という小さなしこりのようなものが発生する特殊な炎症が起きます。
    • 眼に発生すれば、ぶどう膜炎(目が濁ったようになる)や虹彩炎(虹彩が腫れたり、充血する)などの症状がでる場合があります
    • 脳内に発生すれば、炎症が発生し、マヒや痙攣などの神経症状を引き起こします
    • 腎臓や肝臓、腸などに発生すれば、黄疸や下痢など発生個所に該当する異常が現れることがあります
  • 混合タイプ
    • ウェット、ドライそれぞれの症状が同時に発生してしまいます

—猫伝染性腹膜炎(FIP)は本当に治療できるようになったのでしょうか?

治療薬が手に入るようになっており、治療できる病気になっています。

承認薬の入手はまだできず、一部のコネクションを持つ病院が海外の実験薬を少量・高額で輸入している場合があるのみです。

一般的に現在の動物医療でFIPに対して投薬されているのは、MUTIAN(ヌクレオシド系逆転写酵素阻害作用をもつ)、XRAPHCONN、CHUAFUNING(CFN)などの未承認とされている抗ウイルス薬です。未承認薬なこともあり、保険は適用外で高額になる傾向がありますが、日本でも多数の臨床報告があり効果は実証されてきています。

2021年12月に公開された日本における治療報告をまとめた論文によると、先述のMUTIAN投与による生存率は82.2%(116/141頭)。投薬終了後の再発率 2.5%(3/116頭)と救えない命もたしかにあるものの、有効性の高さが示唆されています。MUTIANの投与は、ドライタイプ・ウェットタイプどちらも同水準の結果でした。

MUTIANの後発薬である新薬のCHUAFUNING(CFN)はMUTIANよりもさらに高い治療結果が報告されています。(当院では、MUTIANに代わり、CHUAFUNINGを用いて治療を行っております。)

ちなみに、投与された1割程度に一時的に肝酵素の上昇や下痢の症状がでる場合がありますが、重篤な副作用はないとされています。

—猫伝染性腹膜炎はどのように診断されるのでしょうか?検査方法は?料金は?保険は適用される?

この検査をすれば診断を確定できるといった検査手法は現在のところ存在しておらず、症状からの診察と各種検査を併用して診断・治療していきます。

以下の条件に該当すれば、仮診断できる可能性が高いです。

  • 発熱(40℃以上とか)がある
  • 血液検査において貧血になっていることが多く、白血球数の増加、好中球数の増加、リンパ球数が減少するなどが発生している
  • エコー検査で診て腹水や胸水があり、針で刺すと黄色く透明だが粘稠性のある液体が採取される

正確に検査する場合には下記のように進めることがあります。

  • ウェットタイプの症状では、腹水や胸水を採取し、PCR検査にかけてウイルスを検出することができます(腹水・胸水貯留液検査)。この方法の正確性は高く、PCR検査で陽性と出ればFIPであるとほぼ確定診断をくだすことができます。
  • ドライタイプでは腹水や胸水が貯まっておらず採取出来ないため、血液を採取してPCR検査を実施します。FCoVの遺伝子検査では提出するサンプルにより検出感度がだいぶ異なるため、なるべく反応があると思われる検体を採取して検査センターへ提出します。

病院によって検査手法はちがっており、どうしても診断が難しい場合はMUTIAN等を試験的に投与して改善するかによって判断する場合もあるようです。

※MUTIANなどの未承認薬には保険は適用されませんが、上記の検査費用については保険が適用されます。また近年ではクラウドファンディングなどを活用して治療費を集めるケースも増えてきています。

—FIPの治療後の再発は?再発診断はどうやるのでしょうか?

MUTIANやCHUAFUNINGを投与しても、先ほどのデータからも言えるように残念ながら再発する確率は0ではありません。

再発診断は、通常その子の症状やFIPのタイプによって投薬量を変えつつ84日間毎日薬を摂取させます。投薬期間中はおおよそ一週間ごとには通院していただき、治療効果が出ているかを各種検査(血液検査、エコー検査など)をしながら判定します。

84日の投薬後、再発症状がなければ、1か月程度ごとに定期的に通院して健康診断を実施します。数か月程度問題がなければ、寛解したと判断し、治療を終了します。

84日もの間、猫への投薬を行うのは経験者からすると悩ましいものです。YouTubeで再生回数が20万回近かった猫への投薬の仕方を解説した動画を参考までに載せておきます。獣医師に見本を見せてもらうこともおすすめです。

—かからないことが一番、効果のある予防策は?

予防接種はないのですが、飼い主ができうることはいくつかあります。

  • そもそもコロナウイルスが感染しないよう室内飼育を心がける
  • 飢餓・脱水状態、騒音などストレスをかけない
  • 過度な多頭飼育をしない
  • 無理な出産をさせない など、適切にお世話をしてあげてください。

以下はよくきかれる質問なので、回答しておきます。

—人間で言う新型コロナウイルスもありますが、同じ症状になるのでしょうか?

なりません。同じコロナウイルスという名前でも、宿主によって症状が異なります。犬はコロナウイルスに感染すると胃腸炎になりますが、猫のように強い病原性は持ちません。

尚のこと、人間では症状が違います。

—猫コロナウイルスが人間に感染することはありませんか?

種を超えて、感染することはありません。

以下のような症状があれば、すぐに受診をしてください

  • 最近元気がない
  • ご飯を食べる量が減ってきた
  • お腹が膨らんできた
  • 目の色がおかしい
  • 歩き方が変
  • ケイレンやマヒなどの発作が起きたなど

繰り返しますが、FIPは、少し前までの医学書では安楽死が推奨されていたりする不治の病気でした。

今ではお金はかかりますが治る可能性が非常に高い病気になっています。

しかし、FIP(猫伝染性腹膜炎)は急死する可能性も高い病気であり、早期から治療できるほどに生存率が高くなる病気です。

かかりつけ医では診断はできても治療できないこともありますし、診断に納得がいかない場合には症状が進行してしまう前にセカンドオピニオンを求めることを推奨いたします。